散り初めの花
「春を感じるとき」
「公園の桜は満開だ」そんな噂に慌てるようにして出掛けた風の強い曇り日。
県立公園の桜は春爛漫を謳歌し、芝生の上にシートを敷き、ご馳走を広げた花見の客が、グループ毎に酒を酌み交わし、笑い声を上げて観桜に酔いしれていた。
周回路ではアスリート達が派手なスポーツウエアーで、駆け抜けていたし、テニスコートからはラケットがボールをたたく音と観客の声援がはじけ飛んでいる。
私は、そんな賑やかな声に追いかけられるように慌ただしく桜の花のスポットを探し、シャッターを押していた。
そして、ふと「静かな雰囲気は何処だー」「大学構内へ行って見よう」と思った。
すぐ近くの大学の構内はひっそりと静まりかえって、その奥に長い桜並木が道路を挟んで伸びている。桜並木全景を横から眺める一角の芝生の上に車いすが2台並んで、高齢の夫婦が寄り添って、何か語り合いながら花見を楽しんでいた。その女性の手が男性の肩に触れていて、二人の頭がうなずき合っている。何も無い二人だけの世界。
並木の桜は風に吹かれて、ひらひらと僅かに散り始めていた。
なぜか私は、散る桜と頷き会う二人の動きと女性の僅かな手の動きに春を感じたのであった。